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建礼門院右京大夫集 現代語訳
334 - 346 くらき雨の〜くれぬとも
親宗(ちかむね)の中納言が亡くなって後、昔も近くで見た人で、あわれであるので、子の親長(ちかなが)のもとへ、九月の終わり頃に申しやる。空の景色もうちしぐれてさまざまのあわれも、ことに忍びがたかったので、喪中の人の袖の上のことをも推し量られて、
くらき雨の窓うつ音にねざめして人のおもひを思ひこそやれ
暗い夜の雨が窓を打つ音に目を覚まして、あなたの悲しい思いが思いやられます。
露けさのなげく姿にまよふらむ花の上まで思ひこそやれ
露に濡れた花まで悲しみに嘆いているのかと、思い迷われているのでしょう。私はその花の上にまで思いやっています。
露きえし庭の草葉はうら枯(が)れて繁きなげきを思ひこそやれ
父君が亡くなられて庭の草の葉が枯れて、どんなに嘆いておられるかと思いやられます。
わびしらにましらだになく夜の雨に人の心を思ひこそやれ
猿さえもわびしげに鳴く夜の雨に、あなたの心が思いやられます。
君がことなげきなげきのはてはてはうちながめつゝ思ひこそやれ
あなたのことを思って嘆き、その嘆きの果てに、私も亡き人のことを思いながら、あなたのことを思いやっています。
またもこん秋のくれをば惜しまじなかへらぬ道の別れだにこそ
また来年も来る秋の暮れを名残惜しくは思いますまい。二度と帰ってくることのない死という別れこそ名残惜しいものです。
返し 親長
板びさし時雨ばかりは音づれて人めまれなる宿ぞかなしき
板の庇に時雨だけは音を立ててやってきますが、人の訪れは稀な我が家は悲しいことです。
うゑおきし主はかれつゝいろいろの花さへ散るを見るぞ悲しき
花を植えておいた主は死んでしまい、色々の花さえ散っていくのを見るのは悲しいことです。
晴れ間なきうれへの雲にいつとなく涙の雨のふるぞかなしき
私の心の中に晴れ間のない憂いの雲が広がり、いつということなく涙の雨が降るのが悲しいことです。
よもすがら嘆きあかせばあか月にましの一声きくぞかなしき
夜通し嘆き明かしていると、明け方に猿の一声を聞くのは悲しいことです。
くちなしの花色衣ぬぎかへてふぢのたもとになるぞかなしき
黄色のくちなし染の衣を脱ぎ、薄墨色の藤衣(喪服)に着替えたことは悲しいことです。
思ふらむよはの嘆きもある物をとふ言の葉をみるぞかなしき
あなたも亡き人を思って嘆くこともあるでしょうに、とぶらってくれる言葉を見るのは悲しいことです。
くれぬとも又もあふべき秋にだに人の別れをなすよしもがな
秋は暮れてしまってもまた来年逢うことができますが、人の死別も再び逢えるような方法があってほしいものです。
メモ
親宗の中納言 平時信の子、平時忠の弟。
親長 平親宗の子。