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建礼門院右京大夫集 現代語訳
291-300 七夕の〜曇るさへ
(七夕の歌の続き)
七夕のあかぬわかれの涙にや雲のころものつゆかさぬらん
雲が今にも雨が降ってきそうなのは、七夕の満たされぬ思いで別れた織姫の涙であろうか。
なに事もかはりはてぬる世の中に契たがはぬ星あひのそら
何事も変わり果ててしまった世の中で、彦星織姫の逢瀬は約束を違えず行われている。
けふくれば草葉にかくる絲よりもながき契りに絶えん物かは
今日が来ると篠に糸をかけますが、その糸よりも長い彦星織姫の契りは絶えることがあるのでしょうか。
心とぞまれに契りし中なればうらみもせじなあはぬたえまを
自分から約束した仲なので、逢わないでいる間を恨むこともしまい。
あはれともかつは見よとて七夕に涙さながらぬぎてかしつる
一方ではあわれだと見てもらいたいと思って、七夕に、私の涙に濡れた衣をそのまま脱いで供えました。
天の河けふの逢瀬はよそなれど暮れゆく空をなほもまつかな
天の河の今日の逢瀬は、自分とは関係のないことですが、それでも暮れゆく空を待つことです。
浦やまし恋に堪へたる星なれやとしに一夜と契るこゝろは
一年に一夜と約束する心とは、恋しさに堪えられる星であることです。羨ましい。
あひにあひてまだむつ言もつきじ夜(よ)にうたて明けゆく天の戸ぞうき
ようやく一年に一度の逢瀬にあって、まだ睦言も尽きないであろう夜のうちに、ひどいことにも天の岩戸が開いて夜が明けゆくのはつらいことです。
うちはらふ袖や露けき岩枕苔のちりのみふかくつもりて
織姫の袖は涙で露っぽくなることでしょう。岩の枕は塵だけが深く積もっている。
曇るさへうれしかるらん彦星の心のうちを思ひこそやれ
空が曇るのさえ日が暮れるのかと嬉しくなっているだろうと、彦星の心の内が思いやられます。
メモ