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建礼門院右京大夫集 現代語訳
281-290 ひこ星の〜何事を
(七夕の歌の続き)
ひこ星の行合の空をながめても待つこともなきわれぞ悲しき
彦星が織姫に逢うために行きあう空を眺めるにつけても、もう待つ人もいない我が身が悲しい。
年をまたぬ袖だにぬれししのゝめに思ひこそやれ天の羽衣
織姫のように1年もの長きを待たない、少しの間待つだけでさえ袖が涙に濡れたのに、織姫の天の羽衣は明け方の別れにどんなに濡れているだろうかと思いやられます。
あはれとや思ひもすると七夕に身のなげきをも愁へつるかな
織姫ならば同情もしてくれるかと、七夕に我が身の嘆きを愁えたことです。
七夕のいはの枕はこよひこそ涙かゝらぬたえまなるらめ
織姫の岩の枕は、七夕の今宵だけ涙がかからない絶え間なのであろう。
いくたびかゆきかへるらむ七夕のくれいそぐまの心づかひは
七夕の日、日暮れを待ち遠しがっている間の織姫の心遣いは、幾度同じところを行ったり来たりしているのであろう。
ひこ星のあひみるけふはなにゆゑに鳥のわたらぬ水むすぶらむ
彦星が織姫と相逢う今日は、どうして鳥が渡らないうちに、たらいの水を汲むのだろうか。(たらいの水に二星を映すのが七夕の習わしであった)
あはれとや七夕つめも思ふらん逢ふ瀬もまたぬ身の契りをば
逢瀬を待つこともなくなった我が身の契りを織姫もあわれと思うだろうか。
七夕にけふやかすらん野辺ごとに乱れ織るなる虫のころもゝ
どこの野辺でも入り乱れて機織虫(きりぎりす)が衣を織っているようですが、その織った衣を今日は七夕に供えているのだろうか。
いとふらむ心もしらず七夕に涙の袖を人なみにかす
嫌がるだろうと思う心も知らず、涙に袖が濡れている衣を人並みに七夕にお供えしてます。
何事をまづかたるらむひこ星の天の河原にいはまくらして
彦星は天の河原に岩を枕にして、織姫にまず何を語るのだろう。
メモ
「七夕に〜」は『夫木抄』秋一に所収。