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建礼門院右京大夫集 現代語訳
224 - 226 ためしなき〜忘れむと
さても実に世に生きながらえている者の常として、心つらく日々を明け暮らしてながら、さすがに現実生活の悩み心も混じり、とかく物思い続けるままに、悲しさもいっそう強くなっていく心地がする。はかなくあわれであった契りも我が身ひとつのことではない。同じ平家に縁のある方と契りを結んで悲運にあった女性は、私が知る者も知らない者も、さすがに多くいるが、さしあたり、類例のない自分だけのことのように思われる。昔も今も、のどかな寿命での別れこそあれ、自分のようなつらい別れは、いつその例があったのかとばかり思うのも仕方ないことで、ただ何にせよ、さすがに思い馴れていたことだけは忘れがたい。どうかして今は忘れようとばかり思うが、できないのが悲しくて、
ためしなきかゝる別れになほとまる面影ばかり身にそふぞうき
類例のないこのような別れなのに、面影だけは残って我が身に寄り添うのはつらいことです。
いかで今はかひなきことをなげかずて物忘れする心にもがな
どうにかして今は、どうにもならないことを嘆かずに、物忘れする心になりたいものです。
忘れむと思ひても又たちかへりなごりなからんことぞかなしき
忘れようと思っても、また思い直しています。あの方の名残がなくなってしまうのは悲しいことです。
メモ