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建礼門院右京大夫集 現代語訳

210 思ふこと

翌年(寿永三年)の春、縁のある人が物詣するといって誘ったので、何事も物憂いけれど、信心の関する方のことなので、思いを起こして詣った。帰途に梅の花が一通りでなく非常に趣のある所があるといって、その人が立ち入っていったので、連れられて行ったところ、本当に世の常ならぬ花の景色である。

その所の主である聖が人にものを言うのを聞くと、「毎年この花の周りに標(しめ)をめぐらして、花を愛でておられた方がいないので、今年は徒に咲いて散っています。あわれなことです」と言うのを、「誰ですか」とその人が尋ねると、資盛と判然とあの方の名を言うにつけて、かき乱れ悲しい心のうちに、

思ふこと心のまゝにかたらはむなれける人を花もしのばゞ

思うことを心のままに花に語ろう。慣れ親しんだ人を花の方でも恋しく思っているのならば。

 

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