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建礼門院右京大夫集 現代語訳
200 - 201 きなれける/あはれてふ
母である人が出家して亡くなったが、ことに仏道への志が深くて、人にも遺言などされた。五月の初め、亡くなった後は、万事方針が立たなくて、夜を眠らずに明かして暮らしたが、四十九日にもなって、着られていた衣、袈裟などを取り出して、こもり僧にとらせ、阿証上人に奉るなどしたが、衣のしわまでも、着ていた折と変わらなくて、面影がいっそうちらちらする悲しさに、
きなれける衣の袖のをりめまでたゞその人をみる心ちして
着慣れていた衣の袖の折り目まで当時と変わりなく、その人を見る心地がする。
袖の折り目に母の面影を見るのもそう思ってみるからで、それにつけても心細く、悲しいことばかりが勝って、
あはれてふ人もなき世にのこりゐていかになるべき我身なるらむ
情愛を寄せてくれる人もいない世に残っていて、私がこれからどうなっていくのだろうか。
メモ
阿証上人 長楽寺の僧。建礼門院の戒師。