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建礼門院右京大夫集 現代語訳
139 - 144 浦やまし/きえぬべき/あはれのみ/人わかず/ゆくすゑを/諸かづら
かりそめのことをきっかけに、本心らしく交際を続けていたが、世の常の恋愛の有り様には決してなるまいとばかり思っていたので、気強く許さずに過ごしたが、私の思いが他にあることを、(藤原隆信が)早くもたいそうよく聞いてしまっていた。そしてそのことをほのめかして、
浦やましいかなる風のなさけにてたくもの煙(けぶり)うちなびきけん
羨ましいことだ。どんな人の情にひかれて、あなたは靡いたのだろうか。
返し
きえぬべき煙(けぶり)のすゑは浦風になびきもせずてたゞよふ物を
分別もつかず、ただなんということもないのならば、袖の濡れる理由もありますまいに。
また同じことを言って、
あはれのみ深くかくべき我をおきて誰に心をかはすなるらむ
情愛を深くかけるべき私を差し置いて、あなたは誰に心を通わせているのだろう。
返し
人わかずあわれをかはすあだ人に情(なさけ)しりてもみえじとぞ思ふ
人の区別もなく情をかける浮気な人に、情を知っているような様子は見せまいと思います。
祭りの日に同じ人が
ゆくすゑを神にかけても祈るかなあふひてふ名をあらましにして
二人の行末を神にかけて祈ります。葵祭の名にちなんだ「逢う日」を頼みとして。
返し
諸かづらその名をかけて祈るとも神の心にうけじとぞ思ふ
葵かづらのその名「逢う日」をかけて祈ろうとも、神の心はその祈りを受けてくださるまいと思います。
メモ
藤原隆信 藤原為隆の子。似絵(にせえ・肖像画)の名手。
祭 賀茂祭。
諸かづら 一名「葵かづら」。