※本ページは広告による収益を得ています。
建礼門院右京大夫集 現代語訳
135 - 138 おもひわく/おもひわかで/もしほくむ/きみにのみ
思いがけないところで、世の人よりも色を好むと聞く人(藤原隆信)が、趣のある尼と物語りしながら、夜も更けたが、近くに人がいる気配 であろうか、これは四月十日のことであったが、「月の光もほのぼのとかすかで、様子もわかるまい」など言って人を仲介して、
おもひわくかたも渚による波のいとかく袖をぬらすべしやは
分別もなくあなたに心を寄せて、涙で袖を濡らさなければならないのでしょうか。
と申してきた返し
おもひわかでなにと渚の波ならばぬるらむ袖のゆゑもあらじを
分別もつかず、ただなんということもないのならば、袖の濡れる理由もありますまいに。
もしほくむあまの袖にぞ沖つ波心よせてくだくとはみし
尼に心を砕いて袖が涙で濡れるのだと私はお見受けしました。私のための涙ではありませんよね。
また返し
きみにのみわきて心のよる波はあまの磯屋にたちもとまらず
あなたにだけ心を寄せています。尼のもとには立ち止まりもしません。
メモ
藤原隆信 藤原為隆の子。似絵(にせえ・肖像画)の名手。