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建礼門院右京大夫集 現代語訳

086 - 088 帰りゆく/たちかへる

秋の末に、建春門院がいらっしゃって、久しく中宮(建礼門院)と同じ御所においでになる。9月が終わる明日にお帰りになるが、女官が、葦手(あしで)の下絵の檀紙(だんし)で立文(たてぶみ)を作って、紅の薄様にて、

帰りゆく秋にさきだつなごりこそをしむ心のかぎりなりけれ

過ぎ去る秋に先立って帰らなければなりませんが、限りなく名残惜しい気持ちです。

返し、表が白い菊の薄様に書いて、誰と知らないので、女房の中へとももり(平知盛)の中将が参られたので言付ける。まことに、世の景色も名残惜しげに時雨れて、あわれであるが、

たちかへる名残をなにとをしむらん千年の秋のゝどかなる世に

お帰りになる名残をどうして惜しむのでしょう。千秋万歳の泰平な世に。

 


メモ

建春門院 平滋子平清盛の妻である時子の妹。建礼門院平徳子にとって建春門院は叔母。

葦手 文字を絵画的に変形して書いたもの。

檀紙 檀(まゆみ)または楮(こうぞ)を原料とした厚手の紙。

立文 書状の形式のひとつ。

薄様 薄手の雁皮紙。

とももり 平知盛。平清盛の四男。


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