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建礼門院右京大夫集 現代語訳
006 - 007 うらやまし/中々に
同じ人(頭中将実宗)が4月加賀茂祭の頃、藤壷(宮中の建物の名前)に参って物語した折、権亮維盛(平維盛)が通ったのを呼び止めて、「近いうちに、どこでもいいいのだが、のんびりとあそぼうと思う。そのときは必ずお誘い申し上げよう」などいい約束して、少将(平維盛)はすみやかに去られたが、少し離れて眺められるほどの所に立たれていた。二重の色の濃い直衣、指貫、若楓の衣、その頃の単は常のことだが、色が殊に映えて見えて、警護の姿はまことに絵物語に書き立ててあるように美しく見えたのを、中将(頭中将実宗)が「あれのような容姿だと我が身を思ったら、どんなにか命も惜しくて、かえってよくないことであろう」などいって、
うらやましみと見る人のいかばかりなべてあふひを心かくらむ
うらやましいことだ。あの人を見る人はみな、どんなにかあの人と逢う日を心にかけて願っていることであろう。
「ただ今のあなたの御心の内も、そうなのでしょう」とおっしゃったので、物の端に書いて差し出した。
中々に花の姿はよそに見てあふひとまではかけじとぞ思ふ
花のように美しい姿はよそから見るだけにして、逢う人とまでは願いをかけまいと思います。
といったところ、「お思いを捨てていらっしゃるのも、深く思っているからで、心は潔白ですか。正直な言葉ではないでしょう」とお笑いになったのも、なるほどとおもしろく思った。
メモ