※本ページは広告による収益を得ています。
建礼門院右京大夫集 現代語訳
258 恋ひしのぶ
水面は深緑で黒々と恐ろしげに荒れているが、余り遠くもなく見渡される向こうに、はっきりとした航跡をつけて、空は水の果てとひとつになって、雲路に漕ぎ消える小舟が、傍から見ると波風が荒くなつかしからぬ様子で、草木もない浜辺に堪え難いほどに強い風が吹き、どうかして、波に入って亡くなった人(平資盛)がこのような場所にいると思いもかけず聞いたのならば、どんなに住みづらい場所であるとも、ここにとどまろうとさえ思い案じられて、
恋ひしのぶ人にあふみの海ならばあらき波にもたちまじらまし
恋い偲ぶあの方(平資盛)に逢うことのできる海ならば、この荒い波ともともに暮らそうものを。
メモ
あふみ 「逢う」と「近江」をかけている。
『玉葉和歌集』雑四に所収。