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建礼門院右京大夫集 現代語訳
192 - 195 おもふどち〜鬼をげに
宮(建礼門院)が陛下の御方においであそばす御共をして帰ってきた人々が物語りしていううちに火も消えたけれども、炭櫃の埋み火をかき起こして、気の合った者同志4人ばかりが、さまざまに心の内を少しも残さないで話し合おうなどといったけれど、それぞれに思い悩んでいることは、あらわにも話してしまわないのも、我が心にも覚えがあって、あはれに思われた。
おもふどち夜半のうづみ火かきおこし闇のうつゝにまどゐをぞする
気の合った者同志が深夜の埋み火をかきおこしながら、闇の中で集まって話をすることです。
たれもその心の底はかずかずにいひはてねどもしるくぞありける
誰もその心の底は言い尽くすことは難しいけれども、言葉には表われなくてもあきらかなことです。
などと思い続けていると、宮のすけ(平重衡)が内裏の当番にお仕えするといって入ってきて、例の冗談ごとも、惑しきことも、面白く言って、私も他の人も一通りでなく笑いながら、はては恐ろしい物語などをして脅されたので、大真面目にみな汗の出るほど恐ろしさを感じながら、「今は聞くまい。後で」と言ったが、それでも物語を続けられたので、はては衣をひきかぶって、聞くまいとして寝た後に心に思うこと、
あだごとにたゞいふ人の物がたりそれだに心まどひぬるかな
ただでまかせを言う人の物語を聞いただけで心は取り乱してしまったことです。
鬼をげにみぬだにいたく恐ろしきに後の世をこそ思ひしりぬれ
鬼を本当に見ないで話を聞いただけでもひどく恐ろしいのだから、来世のことを思い知ったことです。
メモ
平重衡 平清盛の五男。