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建礼門院右京大夫集 現代語訳

259 - 260 あはれいかに/思へたゞ

正月の半ばを過ぎた頃など、なんとなく春の気配でうらうらと霞がわたっていたとき、高倉院の中納言の典侍と聞こえた人が只今の内裏(後鳥羽天皇)にお仕えされているが、逢おうと言ってきたので、昔のことを知った人も懐かしくて、その日を待っているうちに、差し支えることがあって、そのままになっていた。約束の夜は今宵であったのにと思う夜、荒れている家の軒端から月が射し込んで、梅が時おり香ってくるなど艶やかである。眺め明かして、翌朝早く申しやる。

あはれいかに今朝はなごりをながめまし昨日のくれの誠なりせば

ああ、どんなに今朝は名残惜しくながめたことでしょう。昨日の夕暮れに本当にお逢いすることができていたら。

返し

思へたゞさぞあらましのなごりさへ昨日も今日もありあけの空

本当にお逢いできていたらこうであったろうと想像するだけで、その余韻が心をとらえ、昨日も今日も有明の空を眺めています。あなたもご想像ください。

 


メモ

高倉院の中納言の典侍 五条大納言国綱卿女。高倉院御乳母。

後鳥羽天皇 高倉天皇の第四皇子。安徳天皇の異母弟。


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