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建礼門院右京大夫集 現代語訳

222 なべて世の

翌年の春、まことに(資盛が)この世の外の身になってしまったと聞いてしまった。そのときのことは、ましてや何と言うことができようか。みなかねてから思っていたことだが、ただ呆然とだけ思われた。あまりにせき止めかねてこぼれる涙も、一方では傍の人々に対しても遠慮しなければならぬので、何とか人は思うだろうが、気分が悪いと言って、衾をひきかぶって寝て暮らすばかりで、心のままに泣いて過ごした。

どうかして忘れようと思うが、意地悪くも面影は目の前にちらつき、(資盛の)言葉を現に今聞くような心地がして、身を責めて、悲しみを言い尽くすことができない。ただ寿命で亡くなったなどと聞くことでさえ、悲しいことだと言いも思いもするが、この悲しみは何を類例としたらようにだろうかと、何度も思われて、

なべて世のはかなきことをかなしとはかゝる夢みぬ人やいひけん

世間一般では死ぬことを悲しいというが、それはこのような夢としか思えないような堪え難いことに遭ったことのない人が言ったのであろう。

 

メモ

平資盛 平重盛の次男。平維盛の弟。


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