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建礼門院右京大夫集 現代語訳

003 春のはな

同じ春であったか、建春門院(平滋子。後白河院の妃、高倉天皇の生母)が内裏に少しの間お仕えになられていたが、この中宮の御所へおいでになって、八条の二位殿(平時子)のお参りがあってもこちらの御所にいらっしゃったのを、「みくしげどの」のお後ろからおずおずと見申し上げていたが、

建春門院は紫匂いの御衣、山吹の御表衣、桜の御小袿、青色の御唐衣、蝶をいろいろに織り模様としているのをお召しになり、いいようもなくお美しく、若々しくいらっしゃる。

宮(建礼門院)は蕾紅梅の御衣、かばざくらの御表衣、柳の御小袿、赤色の御唐衣、みな桜を織り模様としてあるのを御召しになって、色が美しく映えあって、今さらにいいようがなくお美しく、辺り一帯の御所の飾付け、人々の姿まで、特別に輝くばかりに見えた折、心にこのように思われた。

春のはな秋の月夜をおなじをりみるこゝちする雲のうへかな

春の花と秋の月夜を同時に見る心地がする宮中であることだ。

 


メモ

建春門院 平滋子後白河院の妃。平清盛の妻である時子の妹なので、建礼門院平徳子にとって建春門院は叔母に当たります。

八条の二位殿 平時子。平清盛の妻。

みくしげどの みくしげどの(装束を調進する所)を受け持つ上臈女房。


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